■ステンレス包丁に現れる穴状の錆「孔蝕」について

ステンレス包丁に現れる穴状の錆び「孔蝕」はサビの間口の大きさの割合に比べ、深い穴状の局部的(部分的)腐蝕を言います。
孔蝕について述べようとすると
  イ.材質
  ロ.使用環境条件
  ハ.いかなる原因で
  二.腐蝕の形態

などについて説明が必要になります。
 
チタン、アルミニュ-ム、ステンレス鋼のような金属は腐食に強いイメージで知られていますが、決して化学的に安定したものではなく、実用面で強いのは、その金属の表面に「不動態被膜]と言われる一種の酸化被膜を瞬間的に形成し、自己防衛するからです。
この不動態被膜は非常に薄いので、金属光沢を保ちます。
ステンレス包丁も被膜を作った状態―通常の乾いた環境や中性の水中では、全くサビを生じることはありません。
しかし塩素イオン (海水、塩水、醤油、味噌などに含まれる)は強敵になります。
また、台所用洗剤のうち塩素系消毒液もステンレス包丁には大敵です。
塩素イオンがステンレス包丁表面に作用して不動態被膜が部分的に壊されます。 被膜が壊されて穴があいた状態は、ペンキの一部に傷がついたようにその部分だけが単独で腐蝕することとは異なります。
それば図に示すように不動態被膜を+極と壊された素地部-極との間で電池作用が生じるのです。
 

ステンレス包丁での孔蝕
 
不動態皮膜が壊された部分はマイナス極となり、まわりの不動態被膜が存在する部分をプラス極として電池を作ることになります。
プラス部分はマイナス部分よりはるかに広い面積を占めるため、腐蝕の促進作用は一段と大きくなっていきます。
 

不動態被膜は瞬間的にひとりでにできるものですから、自身で治癒しても良いはずですが、一度孔蝕が始まると殆ど直ることはありません。 孔蝕は以上のように電池作用で進行していきます。
孔蝕の進行を止めるには。
場所によってはマイナスイオンが発生しやすい環境で、水道水に含まれる塩素イオンを引き寄せ、スポット的に集中したサビが発生する場合があります。一度起きたピンポイントのサビは研ぎ上げてもわずかに残っていれば、そこが電極箇所となり必ず広がります。刃先に出た場合には完全に削り落すことが必要です。
普段使用する際には、作業後必ず水分を完全に拭き取ることが大切です。 包丁を熱湯にくぐらせ、乾いた布で完全に拭き取り、乾燥してください。

 

孔蝕4面写真